新卒で飲食業界は厳しい?業界の実態と今後の動向を解説!
2024年10月25日更新
はじめに
サービス残業に土日出勤、長時間労働に肉体労働など、あまり良いイメージを持たれることのない飲食業界。
アルバイト経験のある人なら想像がつくかと思いますが、正社員というポジションになると、なおさらキツそうな印象がありますよね。
- 新卒で飲食に就職した場合の初任給
- 正社員として飲食で働くことの実態
- 働き方改革・コロナを受けての今後の飲食業界の動向
「飲食はブラック」と揶揄されがちな業界ですが、働く上で何を重視するかによっても、受け止め方が変わってくるはずです。
飲食業界のリアルについて、改めてしっかりと理解しておきましょう。
飲食業界とは?
飲食業界とは、主に食品を調達して加工・調理をした食事を提供する仕事をおこなう業界のことです。
飲食業界は生活に密接に関わる仕事のため、消費者からニーズが途絶えることはないでしょう。
しかし、現在は人口が減少の一途を辿っていたり、ライフスタイルが多様化したりしています。
そのため、飲食業界の市場は徐々に縮小していく可能性もゼロではありません。
また、飲食業界は参入障壁の低さから競争が激しいのも特徴です。
事実、厚生労働省の「飲食店営業施設数の推移」によると、2021年度に営業中の飲食店は約145万店舗でした。特に生き残るための戦略を立てていく必要がある業界といえるでしょう。
新卒で飲食に就職した場合の初任給はいくら?
まずは気になるお給料事情から見ていきましょう。
厚生労働省が毎年発表している「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)」のうち、産業別のデータを見てみると
「宿泊業・飲食サービス業」の「大学卒(男女計)」は、20万800円となっており、全12産業の中で最も低い金額となっています。
前年の平成30年度は19万8,100円に留まっており、前年比1.4%増と微増はしているものの、
やはり業界で最も低い水準であることは認めざるを得ません。
ちなみに、その後の気になる昇給度合いですが、飲食店向けにコンサルティングを行っている「飲食店.COM」ガ2016年5月、同社運営の求人サイト「求人@飲食店.COM」の利用ユーザー288名を対象に実施した調査によると、「27〜30万円」が27%と最も多くの割合を占める結果となりました。
年齢別に上記の数値を深掘っていくと、次のようになります。
同調査では、
- 「18万円以下」:約73%は20代以下
- 「35万円以上」:約74%は40代以上
という結果も出ており、年次が上がればある程度の昇給が期待できることが伺えます。
とはいえ、20代以下の多くの場合では月給が「18万以下」とされている点や、
30代の月給が「19~22万円」「23~26万円」「27~30万円」と広く分散していることから、
ポイント
- 低賃金が予想される20代でキャリアを続けられるかどうか
- また30代で成功を収められるようにキャリアをうまく築けるかどうか
が分かれ道になるといっても、過言ではないでしょう。
飲食は本当にブラック?飲食×正社員の実態とは
さて、気になる初任給・月給事情が見えてきて、苦虫を嚙みつぶしたような気分の方も少なくないのではないでしょうか。
続け様になってしまいますが、飲食店で正社員として働くことのリアルについて見ていきます。
新卒で飲食業界に入るということは、つまり正社員として働くということを意味しますので、下記のような現実を想定しておく必要があると言えるでしょう。
- 長時間労働
- 肉体労働
- 同年代の友達と休日が合わない
- 若いうちから様々なポジションに関われる
長時間労働
人間の三大欲求の一つでもありますから、営業時間は早朝から深夜、中には24時間営業という店舗もあります。
深夜まで営業している居酒屋などの場合は、酔った面倒な客の対応をしなければならないことも多いですし、高級レストランの場合は、仕込みで朝が早い上、接待で夜も遅くなるケースは往々にしてあります。
このような営業時間の長い店舗の場合当然ながらアルバイトと交代で勤務していくことになりますが、アルバイトが辞めてしまったり、テスト期間でシフトに入れない、シフトを忘れていた、急遽入れなくなった、などの事由が発生すると、足りなくなった分の埋め合わせは、正社員が行うこととなります。
休日出勤を余儀なくされ、プライベートの時間がなくなるなどのリスクは想定しておきましょう。
肉体労働
低賃金、長時間労働に加えて、この「肉体労働」も飲食がブラックと揶揄される代表的な理由です。
キッチンやホールなど飲食のアルバイト経験のある方なら分かるかと思いますが、1日の8時間労働を終えただけで、ものすごく疲れますよね。
立ち仕事が基本なので足もパンパンにむくみますし、帰宅後は疲れて、何もする気も起きません。
正社員の場合、事務的な部分を任されることが多いかとは思いますが、企業によっては「年次の若いうちは現場」という主義を持つ企業も存在します。
人手不足に悩まされている企業の場合は、現場に駆り出されることも少なくありません。
結果、アルバイトとほぼ同じ業務をこなしているだけにも関わらず、対しての待遇は低く、責任ばかりが重い、という苦労に悩まされてしまうかもしれません。
後ほど詳しく解説しますが、「こんなはずじゃなかった」と後で後悔しないためにもその企業の経営状態などは事前に把握しておく必要があるでしょう。
同年代の友達と休日が合わない
これは飲食業界に限らずサービス業界であれば避けられない宿命のようなものなのですが、繁忙期である土日祝は基本的に出勤扱いとなり、同年代の友達や知人と休日が合わない、という事態になってしまいがちです。
最初のうちはまだよくても、会えない期間が長く続けば続くほど友達や知人、恋人との疎遠は避けられず、交際関係に影響を与えてしまいかねません。
同じくサービス業界従事者の知人がいれば別ですが、だからといってシフトが基本である業界で、うまく休みが合うとは限りません。
「ここまでして、飲食を続ける意味とは何なのだろうか」と、志半ばにして離職を決意する人が多いのも、この業界の特徴と言えるでしょう。
若いうちから様々なポジションに関われる
負の側面ばかり取り上げてきましたが、飲食業界は「昇進が早い」というメリットも存在します。
他の業界と比べても昇進は早い方ですし、同じ職場で働く高卒の人たちとも比べても早い段階から現場以外の仕事も任されるようになります。
例えば、キャリアアップのセミナーや商品開発などに早い段階から参加することができますし、
実際に新しい業態で商品開発部担当になった方が2年目だったりすることも珍しくありません。
というのも、競合の多い飲食業界では、柔軟な発想で他社と差別化を図ることが、店舗生き残りへの重要な布石となるからです。
そのため、早いうちから活躍したい人や、経営に携わりたいと考えている人にとって、
飲食業界はたくさんのチャンスが転がっているといえるでしょう。
ブラック飲食を見極める4つのポイント
これまで、飲食にまつわるリアルを解説してきました。
モチベーションが下がってしまった方もいるかと思いますが、全ての店舗でそうだとは限りません。
- 残業代支給の有無
- 有休消化率
- 求人情報の更新度
- シフトの確認
中には、ロイヤルホストのように労働環境改善で大きく売上を伸ばし、従業員の定着率も増加傾向にある外食チェーンも存在します。
本項では、ブラック企業を見極めるポイントについて解説します。
残業代支給の有無
これは飲食に限らず、他の業界でも同様のことがいえますが残業代がきちんと支給されるかどうかは、非常に重要な項目です。
「みなし残業」といって、基本給に残業代が含まれているところは危険ですし、残業代がそもそも支払われないところはもってのほかです。
残業があまりないとされる事務職などと違い、サービス業である飲食業界にとって、様々なトラブルによる残業はつきものです。
どれぐらいの残業が見込まれているのか、その分の対価はきちんと支払われるのかどうかは、応募前に必ず確認しておく必要があるでしょう。
有休消化率
有休消化率もまた、必ず確認しておくべきポイントです。
これも飲食に限りませんが、企業としては「有給〇〇日取得」としているにも関わらず、肝心の店長や先輩社員が取得をしていなかったりすると、その下の社員としては非常に休みにくくなります。
こればかりは配属先も関係してくるため、こちら側では判断が難しいところですが、
なるべく多くの店舗から情報を集めるようにするなど、実態の把握に努めると良いでしょう。
場合によっては、思い切って面接で聞いてみるのも手かもしれません。
もちろん、「福利厚生ばかりに目がいっている」と思われないよう、聞き方には最大限の配慮を払う必要がありますが、「差し支えなければ」とやんわり聞くようにすると、有休消化に尽力している企業であれば、包み隠さず教えてくれるはずです。
求人情報の更新度
意外と思われるかもしれませんが、求人情報の更新度もまた重要です。
飲食の場合、自社ホームページや求人媒体などでアルバイト募集をかけることになりますが、これが常にかかっている場合や、長い間更新されていない場合は、慢性的な人手不足に陥っていると考えられるため、注意が必要です。
人手が足りていないために、繁忙期には休日出勤を余儀なくされる、などの事態も考えられますので、入社は慎重な判断が必要です。
シフトの確認
最後に、正社員だけ鬼畜なシフトが組まれていないかどうかも、チェックすべきでしょう。
例えば、早番・遅番などの交代制のシフトが正社員にも適用されているかどうか、正社員だけ終日通しであったり、深夜勤務を余儀なくされていないかどうかなど、確認方法が難しい項目ではありますが、掲示板や横のつながりを最大限に活用し、情報収集に努めるのが吉です。
飲食業界の今後の動向
長時間の肉体労働や低賃金による慢性的な人手不足に加え、コロナが致命的なダメージとなり経営状況悪化に苦しむ飲食店舗は少なくありませんが、昨今叫ばれている働き方改革を受けて、労働環境を改善しようとする動きも広まっています。
そこで本章では飲食業界における主な3つのポイントについて解説します。
- 飲食業界でのITの活用
- 飲食業界での待遇向上
- 急拡大するフードデリバリー需要
飲食業界でのITの活用
飲食業界で業務のIT化を進め、現場の負担を軽くしようという動きがあります。
最近流行りのキャッシュレスによるレジ業務の円滑化や、タブレット端末を使ってのオーダーなども珍しくなくなってきました。
最近は自分のスマホで注文できるようなモバイルオーダーなども登場してきています。
このようにIT技術を用いることで、各業務の円滑化のみならず、レジ締めや報告書作成などの事務処理の効率化につながり、その結果、仕事量が減り労働時間が短くなるなどの恩恵が報告されています。
IT化により業務が減る、AIに仕事を奪われるなどの懸念の声も上がっていましたが、むしろIT化の波によって、以下のメリットは大きいと言えるでしょう。
メリット
- 本来最も注力すべきである「対面(非対面)での顧客へのサービス」に従業員が時間を割くことが可能になる
- 従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上する
飲食業界での待遇向上
IT導入による業務効率化に加え、
飲食業界での待遇アップに対する取り組みもまた、見受けられるようになってきました。
特に労働時間については、飲食店.COMの調査によると約6割の飲食店が「既に十分な休みが取れている」もしくは「十分な休みを取れていないが、休日数の増加に向けて取り組み中」と回答しています。
確かに、まだまだ休みを取れずに試行錯誤である飲食店も多く見受けられますが、一昔前に比べると改善してきているといえるでしょう。
また、働きやすい環境づくりに向けた取り組みの内容としては、
- スタッフ同士のコミュニケーションを図っている
- スタッフ皆が意見を言える環境づくりをしている
- 新人のアルバイトさんに気持ちよく働いてもらえるように、こまめなコミュニケーションをとっている
このように楽しく、明るく、気持ちよく働くことができる職場づくりを試みていることがわかります。
まだまだ改善が必要な部分もありますが、多くの企業が働き方改革を実践し、企業努力を重ねていることが伺えます。
急拡大するフードデリバリー需要
街で見かけることが増え、もはやお馴染みとなった「Uber eats」の緑の文字と自転車のドライバー。
新型コロナウイルスの感染拡大による巣篭もり需要の増加を受けて、急速に売上を伸ばしているのが「フードデリバリー」産業です。
続く営業自粛により、外食産業である飲食店は軒並み影響を受けてしまったわけですが、この「フードデリバリー」に代表される中食産業は、飲食業界の中で今後も拡大が期待されている業界です。
Uber Japan株式会社が官報に掲載した2019年12月31日時点での「第8期決算」によると、当期純利益が前期比162%増の約3億3,659万円に上っています。
外出自粛期間を経ての売上高は未だ公表されておらず、本国アメリカでは人員を解雇するなどのニュースも発表されていましたが、今後のウィズコロナ時代において、中食産業が飲食業界を支えていくことは想像に難くありません。
現在は事実上、圧倒的な知名度を誇るUberの一人勝ち状態となっていますが、日本企業も続々とこの流れに参入しており、柔軟な発想や事業アイデアが求められていくと言えるでしょう。
飲食業界における大手企業3選と概要
本章では飲食業界の主な企業について解説します。
おそらく、あまり聞きなれない企業がほとんどではないでしょうか?
みなさんが知っているようなチェーン店を統括している企業も出てくるので、今度行く時に意識してみてください。
株式会社ゼンショーホールディングス
株式会社ゼンショーホールディングスは、
- すき家
- なか卯
- ココス
- ジョリーパスタ
など数多くの有名外食関連企業を統括している飲食業界最大手のグループであり、M&Aによる統合や吸収によって事業を拡大してきた歴史を持ちます。
近年はチェーン店の海外進出に乗り出したり、別事業を手がけたりしており、様々なキャリアパスが描けるのもまた、同企業の魅力と言えるでしょう。
株式会社すかいらーく
言わずと知れた、株式会社すかいらーくは、低価格帯にてファミリーレストラン事業を主に手がけている事業です。
有名なところとしては、
- ガスト
- バーミヤン
- 魚屋路
- とんから亭
など様々なジャンルの外食チェーンも展開しています。
2006年には業績の悪化によりMBOの実施、東証一部上場廃止を免れることはできませんでしたが、2014年に再上場しました。
また、すかいらーくは消費者の価値観に合わせて、様々な種類の飲食カテゴリーへの挑戦を続けていることも特徴の1つです。
株式会社コロワイド
株式会社コロワイドは、居酒屋チェーンの「甘太郎」で有名な企業でしたが、M&Aも盛んで様々な企業を買収しています。
例えば、
- 牛角を持つ株式会社レインズインターナショナルの買収
- かっぱ寿司でおなじみの株式会社カッパ・クリエイトの子会社化
で飲食業界の存在感を示しています。
また、コロワイドは東南アジアを中心とした飲食店チェーンの進出にも積極的です。
世界展開に関しても決して消極的でないことが見受けられるでしょう。
将来海外支店や事業所で働いてみたい方や、様々な新規事業に興味のある方は、検討してみるのもありかもしれませんね。
6. 飲食を検討中の就活生は必読!オススメ3冊
本章では飲食業界を研究するにあたってオススメの本を紹介していきます。
本記事を読んで「飲食業界についてもっと知りたい!!」と感じた人は参考にしていただけると幸いです。
図解入門業界研究 最新外食産業の動向とカラクリがよ〜くわかる本
(出典:amazon)
「図解入門業界研究 最新外食産業の動向とカラクリがよ〜くわかる本」は外食産業を体系的に理解するには最適の本です。
図解を用いてわかりやすく解説されていることも特徴的です。
そのため、「外食産業を体系的に、俯瞰して理解したい」という方にはもってこいの一冊でしょう。
もちろん、外食産業を理解する上の最初の一冊としても最適です。
週刊ダイヤモンド 2020年 1/11号 [雑誌] (外食の王様)
(出典:amazon)
「上場外食経営者87人の経営偏差値」として、大手外食チェーン経営者の経営力を判断する企画や、「社長vs従業員の“格差度”ランキング97社」という企画、「63社の従業員満足度」というランキングの企画など、知られざる外食企業の内側に切り込んでいます。
また、タピオカブームやキッチンカーなど最近話題のトピックについても開設されており、就活生は必読の一冊と言えるでしょう。
サイゼリヤおいしいから売れるのではない売れているのがおいしい料理だ
(出典:amazon)
イタリアンレストランチェーン「サイゼリヤ」の創業者会長、
正垣康彦氏による外食産業の指南書です。
飲食店にはカリスマ的な存在の人が多いことも事実で、業界の仕組みを変えた人物の考え方を知っておくのも有効な研究といえます。
顧客視点でのマーケティングに強みを持つ同社の施策が盛り込まれており、これは外食業界だけではなくビジネス全体で必要な考え方を学べることもあり、是非読んでおきたい一冊となっています。
さいごに
いかがでしたか?
飲食業界の実態、注意すべきポイントや今後の動向、大手企業からオススメの本まで解説しました。
「飲食はきつい」と言われがちですが、最終的にはその人本人が判断することですし、例えば将来的に自分の店を持ちたいと思っているのであれば、むしろ良い社会経験になるはずです。
ただし、ブラックすぎる企業に入社してしまったがために夢を諦めざるを得ないようなことがあってはいけません。
入社前には、その企業で何を得たいのか、どのようになっていたいのかなど明確な目標を持ち、多角的な観点から十分な企業分析を行った上で、最終的な判断をするようにしましょう。
本記事が飲食業界に興味のある人の参考になれば幸いです。