新卒を会社に定着させるモチベーションとパーソナリティの扱い方
2020年7月31日更新
はじめに
新卒の定着率が悪く、
せっかく採用したのに新人がすぐに会社を辞めてしまう…
という採用課題に悩む企業は少なくありません。
今回は「今どきの若者」である新卒の社員が離職してしまう代表的な理由をご紹介し、
その対策について、モチベーションとパーソナリティという2つの観点から解説します。
1.「七五三現象」の傾向は続行中
「七五三現象」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
この言葉は、
会社に就職してから3年以内に離職してしまう短期離職者の割合を
・中卒の7割
・高卒の5割
・大卒の3割
の順に表した言葉です。
この傾向は真新しいものではなく、
1994年の頃からほとんど変わっていません。
2010年時点では、この割合が
・中卒で6割
・高卒で4割
・大卒で3割
と若干減少しています。
下図のように、平成23年の厚生労働省の調査によると
・中卒:64.8%
・高卒:39.6%
・短大卒:41.2%
・大卒:32.4%
となっており、
やはり、「七五三現象」の傾向がみられます。
この傾向がほとんど変わらない理由は時代によっても異なりますが、
今回は現在の若者が新卒として働く際に陥りやすい、
離職の理由について解説します。
2.新卒が会社を去る3つの主な理由
新卒として働き始めた社員が離職してしまう理由は
仕事面と人間関係面に分けて見ることができます。
以下にご紹介するリアリティショックの問題は
仕事面、人間関係面の両面で起きうる問題ですが、
キャリアデザイン捏造の問題は仕事面における理由であり、
仕事上相性の良い同僚や上司に恵まれないのは人間関係に見られる理由である
ということができます。
それでは順番に見ていきましょう。
2-1.待ち受けるリアリティショック
リアリティショックとは、言い換えれば「理想と現実の乖離」のことであり
この乖離は仕事上の様々な面で起きる可能性があります。
実際にはどのようなリアリティショックが見られるのでしょうか。
少し前のデータになりますが、
人材と出版を手がける「株式会社 毎日コミュニケーションズ(マイコミ)が
2008年5月14日から5月22日にかけて、社会人1年目の男女313名を対象に
「リアリティ・ショックに関するアンケート調査」を実施しました。
同調査によると、
リアリティショックを「とても感じた」や「少し感じた」が全体の62.9%を占めており、
そのうちの42.1%が「社会人としての自分の能力」や「社内の人間関係」など、
自分を含めた人に関わる現実にリアリティショックを感じていることがわかります。
(出典:マイコミ社会人レポート「リアリティ・ショックに関するアンケート」調査結果)
リアリティショックによるプレッシャーや
ネガティブな感情などの心理的な影響は大きく、
このリアリティショックが原因で短期離職してしまう新卒社員が多いのです。
2-2.キャリアデザインの捏造
キャリアデザインが上手く思い描けない新卒社員は、
・やりたいこと(will)
・すべきこと(must)
・できること(can)
のバランスが取れておらず、
無理やりキャリアをデザインしようとしてwillを捏造してしまいます。
willの捏造は、
入社前の選考段階にある就活生にも散見される問題ですが、
特にこれが新卒社員の場合は、
職場に尊敬できる上司がいないことや
手本にすべきロールモデルに出会えないなどの原因から、
理想と現実のギャップに苦しみ、
仕事に向き合えず、立ち止まってしまうケースが考えられます。
そのような新卒社員を抱えてしまうと
上司や同僚が「仕事をやって欲しい」と言っても動かない、
という問題が発生し、
業務に歪みが生じてしまいます。
こうして職場にいづらくなってしまった新卒社員は、
3年間も耐えることができず、離職という結果に繋がってしまいます。
2-3.相性の良い同僚や上司に恵まれない
ここでいう「相性」とは
仕事の生産性に関わるパーソナリティの相性のことです。
同じ仕事をするにしても、違う組成のチームで行うと
総生産性が実際の人数を上回ることがあります。
下のデータは、
コンピュータ・プログラミング作業での総生産性に着目したグラフです。
実際の組成人数が9人や10人であっても、
互いのメンバーの能力を補完し合う補完型集団の場合や
互いが同じようなパーソナリティを持つ同質型集団では、
生産理論値の9人、10人を上回った総生産性を得られることがわかります。
(出典:ヒューマンロジック研究所資料より)
全社的なレベルでなくても、部署や部門において、
こうした個々のパーソナリティの相性に基づいた組織編成ができていない場合、
新卒社員は自分の強みや個性だと思ってきたものが
仕事に生かしきれない、というジレンマに苦しむことになります。
そこに息苦しさを感じ始めた新卒社員は、この問題を
「同僚や上司に恵まれない」
という人間関係の問題に置き換え、
職場を去ってしまうというケースが考えられるのです。
3.新卒の離職を防ぐ対策
以上に説明してきたように、
リアリティショックやキャリアデザインの捏造、
組織におけるパーソナリティの相性の悪さなどが
新卒社員の離職の原因と考えられます。
これら仕事面と人間関係面での問題は、
それぞれ新卒社員のモチベーションリソースの理解を進めるとともに、
パーソナリティの補完と相性に注意した組織編成をすることで
対策することが可能です。
3-1.新卒社員のモチベーションリソースを理解する
「今どきの若者」である新卒社員が、
モチベーションの源泉にしているものはなんでしょうか。
結論からいうと、それは本人の
「知的好奇心」や「社会的意義」にあります。
承認欲求が生じた際は、
明確なルールの下で競争していたかつての時代とは異なり、
現在は社会的な多様性が認められていることもあって、
承認欲求が生じた場合は逆にレールが明確ではなく、
ゴールのない試行錯誤を繰り返すことになります。
このとき本人が大切にすることとして
「他人からどう思われるか」ということは二の次になり、
試行錯誤を楽しめるようになるのです。
では、その試行錯誤の楽しさを見つけるモチベーションを保つために
最も大切なのは何でしょうか。
答えは自分の行為に「意味付ける力」です。
この意味付け力を象徴する話として
「3人のレンガ職人」というイソップの寓話が知られています。
話を要約すれば、
同じレンガを積み上げる仕事をしていても、
その目的を自分で意識できているかどうかで
モチベーションの維持が左右されるというものです。
たとえレンガを積み上げる仕事に代わりはないとしても、
本人の捉え方次第で、いくらでも解釈は可能です。
例えば、
「レンガを積み上げてるに決まっているだろ」
と言ってしまうのか
「歴史に残る大聖堂を作っているんだ」
と述べ、高い目的意識を有しているのかでは、
同じ業務とはいえモチベーションに大きな差が生じます。
現実の職場でも、新卒社員の知的好奇心や社会的意義に応じて
仕事を任せたり、育成していくことで
仕事に取り組むことの意味を感じさせることが大切です。
これにより、
真面目に、自主的に動ける社員への育成が可能になると言えるでしょう。
3-2.パーソナリティの相性と補完に注目
社員同士のパーソナリティの扱いに関しては、
相性と補完に注目することが重要です。
「同質型の集団や補完型の集団は、
何も考えずに集合した無為抽出集団よりも、総生産性が上がる」
ということは上述の通りです。
また、同質型の組織は生産性が上がる効果が早いという特徴がありますが、
雰囲気や関係性のマンネリ化の恐れがあります。
それとは反対に、
互いの特徴やパーソナリティを補い合う補完型の集団では、
組織の総生産性の向上には時間がかかるもののその効果が大きく、
新卒社員も自分の強みやパーソナリティを生かすことができ、
結果として多角的な側面を持った柔軟な組織に成長することができます。
具体的には、
信念や執着の強い人は、何事も受け入れる受容的な人や、
決まったことを仕組み化するのに長けた人などとそのパーソナリティを補完し合います。
逆に信念や執着が強いと、
同質のパーソナリティを持った人や知的好奇心が旺盛な人とは
補完し合うとは言えません。
新卒社員が早い段階で自分のパーソナリティを生かす場を見つけるためには、
一緒に働く同僚や上司のパーソナリティも考慮し、
組織を編成することが重要なのです。
おわりに
せっかく入社してくれた新卒社員が、
会社にストレスを感じてすぐに離職してしまうのはもったいないことです。
離職の原因は、
主に人間関係の問題や、現実ー理想のギャップに認められます。
それを理解した上で、
仕事に「意味付ける力」によってモチベーションを維持させたり、
パーソナリティの補完に注目して組織を見直すことで、
新卒社員から歳月を経ても真面目に、自分の強みを生かせる職場が実現します。
今一度、若手社員のモチベーションのあり方や、
パーソナリティの判断を見直してみてはいかがでしょうか。
監修:曽和利光(そわとしみつ)
人事コンサルティング会社、人材研究所代表。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。