1からやり直した就活 ―― しんどかったけれど、「落ちてよかった」。
榎 優太
長崎大学内定:興銀リース株式会社
「売り手市場だと言われているし、まあいけるんじゃないか? と油断していた気がします」、そう苦笑する榎さん。
「油断していた」とは言うものの、2月から複数のインターンに参加し、業界で縛ることなく情報収集もしていた。その後も、業界を絞ってからは40社ほどの説明会に足を運んだ。業界研究もしたし、選考についても毎回振り返っては対策を立てていた。「ものづくりを通して新しい価値を生み出したい」という就活軸は、実体験にもとづいた、確かな気持ちだった。
それでも、6月初旬 ――― 榎さんの持ち駒は、0社になってしまった。
大学ではアカペラサークルに所属。「人と喧嘩したくない、平和主義です」と言うとおり、柔和な印象。
◆過去の「気持ちが動いた」経験が、道しるべに。
初めて「モノづくり」に惹かれたのは高校生の時、テレビの番組でコンビニチェーンの新商品開発を見た時のこと。「めっちゃおもろい」と刺激を受け、大学進学でも商品企画や開発について実践的に学ぼうと、長崎大学を選んだ。
入学後のゼミで、カフェで使用するトレーを作った時、「モノづくり」に対する漠然とした気持ちは、確信に変わった。長崎の中小企業とタッグを組み、カフェトレーの企画から製造や、市内のカフェへの提供まで、一部始終に関わった。自分がかかわったカフェトレーが実際に使われているところを見て、アイデアが形となって人に影響を与えられている実感を得て、感動した。
「モノは目に見えるので、自分が携わったモノが人の役にたっているのを、直接見ることができる。自分のがんばりが目に見える形で報われた、という嬉しさがありました」
そんな体験から、就職活動では自然とメーカー目が向いた。モノに携わり、モノを通じて人の役にたちたい、という気持ちを踏まえて、就活の軸を「ものづくりを通して新しい価値を生み出したい」に決めた。
そしてもうひとつ。
「実は、過去にバイトで体を壊してしまったことがあったので、ワークライフバランスが尊重される、“まったりホワイト”な環境で働きたいと考えていました。メーカーの中でも、自分の就活軸とワークライフバランスの両方を満たす会社を候補にしました」
◆とりつくろっても、いいことはなかった。
7社ほどエントリーして、選考が進みはじめた。面接は得意ではなかったので、対策として、毎回面接を録音し、聞き返した。うまく答えられなかった部分をあとで考え直すことで、面接への耐性をあげられるように意識していた。
特に苦い思いをしたのは、他社の選考状況を聞かれた際の受け答え。
一度、正直に答えた選考で落とされたことが、榎さんのなかで引っかかっていた。次に同じことを聞かれた時には、うまく取りつくろわなければ、と考えた。
そして、とあるメーカーの最終面接で同じ質問を投げかけられた榎さんはつい、答えを“盛って”しまう。
「相手も怪しいと思ったのか、詳細をつっこまれて聞かれて……。僕はさらなる嘘で返すしかなくなってしまって、結局その面接は落ちました。正直に言ってもダメ、取り繕ってもダメなんて、もう就活なんて嫌いだ、って落ち込みましたね……」
そのうえ、この面接に落ちたことで、榎さんの持ち駒は0社になってしまった。
周囲の友人はすでに内定先が決まって就活を終えているのに、自分は―――。そう思うと気力もわかず、6月はじめは実家でだらだらと過ごした。
◆「誰に」「何を」を、考え直してみる。
数日は、朝遅く起きてニートのように過ごしたが、しばらくの休止期間のあと、榎さんは再び動きだした。
「体はすごく重かったですが、どうにかしてやり直しを図らないとやばい。3月の頃と同じように、もう一回、スマホで業界や会社を調べたり、新しくエントリーして説明会を予約するところから始めました。不安だし、しんどかったけれど、どうにか動けるだけ動いてみよう、と思いました」
就活を1からやり直すために、榎さんは軸を考え直すことにした。
就活軸の考え方を調べていて目にとまったのは、「誰に何を提供したいか」を考えること。それまでは「何を」の部分しか考えられていなかったが、「誰に」の部分をあらためて考えた。
「もう一度、大学でカフェトレーを作った時のことをよく考えてみました。あの時、技術力はあるのにお金がないから諦めないといけない、という問題にぶつかったことを思い出して。僕はそれが、もったいなくて悔しかった。その体験を思い出したら、「誰に」の部分を決められました」
榎さんが「誰に」の部分に当てはめたのは、「中小企業」。
資金不足の中小企業が挑戦へ踏み出すための手伝いをしたい、と考えた。
大学のゼミで、佐世保の木工企業さんと作ったカフェトレー。技術がひかる。
◆本音で話すほど、話しやすく、伝わりやすくなる。
考え直した軸をもとに、中小企業を資金面で支えられる業界として、金融業界を受けはじめた。銀行の選考はすでに終わっていて焦ったが、榎さんが惹かれたのはリース会社だった。
リース会社の仕事は、お金や目に見えないものではなく、モノを通じた仕事だと感じられた。実際に触れることもできる、リアルなモノが好きな自分にぴったりだと思った。
軸を考え直したことは、変化につながった。
「まず、軸が前より具体的に絞れたことで、企業選びがしやすくなりました。自分に当てはまるものと、当てはまらないものの見分けがつきやすくなった。
さらに、軸が明確なおかげで、熱意をもって話せるようになりました。ジョーカツのCAさんも、『軸がしっかりしてるから、想いが伝わりやすくなった』と言ってくれて、それまでは熱意もなく自信もないことを話していたから、伝わりにくかったのかもしれません」
新しい軸に導かれるようにリース会社に惹かれ、選考では心からの本音を伝えた。4社の選考が順調に進み、なかでも人柄に共感できる1社から内定が出たのが6月末。榎さんは大きな満足感とともに、就活を終えた。
「6月初めに持ち駒が0になってしまって、人生が終わる、と思いました。本当にしんどかったです。でも今は、あのとき落ちてよかった、イチからやり直してよかった、と心から思っています」
こぼればなし
もうひとつ、「落ちてよかった」と思っている理由がある。
「改めて振り返ってみると、メーカーを志望していた頃は“まったりホワイト”という要素にばかり目がいっていました。ワークライフバランスに気をとられすぎて、仕事のやりがいについて十分考えられていなかったんです。
それがリース会社に出会ってからは、本当にやりたい仕事をしている自分をイメージできるようになりました。多少のことは頑張れるし、むしろ頑張りたいと思えることに気づきました。ワークライフバランスはもちろん大切ですが、それに捉われすぎて、仕事にやりがいを求めるという視点に気づけなくなっていた。それもあって、あのときに落ちていて良かったと思えるんです」

- お名前
- 榎 優太(えのき ゆうた)
- 内定
- 興銀リース株式会社
- 大学
- 長崎大学
- 出身
- 和歌山県